大雪の後始末 〜これがじつに大変〜
- 雪情報・雪景色
- 2022.02.09 Wednesday
長野県北端の栄村は、2月5〜6日、積雪量がいっきに1m以上も増え、森地区観測点で3m20cmに達する大雪に見舞われました。
大雪の最中、道路除雪隊は夜が明けるはるか前から出動し、夕刻真っ暗になるまで、ずっと除雪を続ける状態でした。7日の昼になって、ようやく降り止み、ホッとしましたが、じつはそれからが大変なのです。
まず、2枚、写真をご覧ください。
これは、ある村営住宅ですが、落下式の屋根になっているものの、雪が落ちる余地がもうなくなり、屋根の雪と地上の雪がつながってしまっています。これを処理しなければなりません。ただし、素人が下手なやり方をすれば、作業している本人が上から落ちてくる雪に埋もれてしまいます。
こちらは震災復興公営住宅。住宅の横側を見ると、家が雪に埋もれています。住人は80歳代の女性で、自力では除雪できません。後に紹介する村の雪害救助員が出動することになります。この写真の撮影は9日午前11時頃ですが、今日の午前になってようやく屋根の雪が完全に落ちました。雪が落ち切らないと、雪害救助員も入れません。
ただし、この家の住人の女性、雪害救助員が来てくれるまで、ただじっとしているわけではありません。
次の写真の真ん中に一筋、雪が無い箇所が見えますね。
ここに水路があります。この水路が雪でつかえないで、水が流れる状態を保つことが大事。雪消し用の水の確保です。そのために、女性は柄の長いスコップなどを使って雪をつつき、水が流れる状態を確保しているのです。
都会で暮らす80歳代の女性で、こういう作業ができる人はそんなにいないと思われますが、村ではこれが当たり前のことです。
もう1軒、80歳代のご夫婦が暮らす家を紹介します。
家の北東側になるのだと思いますが、1階部分は完全に埋まっています。ただし、写真の左下から中央上にかけて、雪がへこんでいますね。ご主人がスノーダンプで雪を少し片づけたようです。ここからカメラを左に振って撮ったのが、次の写真です。
左上に見える建物は、田んぼ1枚を隔てて、隣の家。
写真の下に注目してください。穴がありますね。これがとても大事なのです。
穴の部分だけを別写真でクローズアップしてみましょう。
黒っぽく見えるのは水です。
この場所、じつは「たね」というものがあるところです。都市部にお住まいの方でも理解しやすく言えば、家の庭にある池のようなものです。集落の中を縦横に走る用水路から水を引き入れています。水温は雪よりも温度が高いので、水の中に雪を放り込んで融かすのです。村の従来の家には基本的にすべて、「たね」があります。
しかし、2月5〜6日のような大雪では、その「たね」も雪に覆われます。そこで、雪が止んだ後、写真のように「たね」の一角にこうした穴を開け、徐々に雪を入れて融かし、次第に雪が無い部分を広げて、「たね」の機能がフルに発揮されるようにしていくのです。
この作業はしばらく、毎日、毎日、続きます。とにかく雪国は根気強い作業を日々行うことが大事なのです。
さて、雪害救助員の活動を紹介しましょう。
先ほど紹介したのとは別の震災復興公営住宅です。家が降り積もった雪と屋根から落ちた雪で完全に埋もれていましたが、雪害救助員がやって来て、ロータリーで雪を飛ばしています。
何処へ飛ばすのか? 栄村は家の周りに田んぼがあります。そこへ飛ばすのです。
雪国でも、住宅が密集している地域では、この方法は使えません。重機で雪を掘り出し、それをトラックで川原などの指定された排雪場まで運ぶことが必要になります。
「田んぼの上にどんどん雪が積みあがったら、春の農作業が遅れるのではないか?」、その心配は要りません。3月下旬〜4月上旬になると、村では「かんまする」といいますが、重機で雪をかまって、融雪を促進する作業をやります。そうすれば、春作業に十分、間に合います。
上の写真の中型トラックは雪害救助員がロータリーを積んできたものです。トラックの荷台に2本、板がかけられていますが、ロータリーをこの上を進ませて、荷台に載せます。
ここまで、「雪害救助員」という言葉を当たり前のように使ってきましたが、これは栄村だけに存在するものです。12月から3月までの冬期臨時公務員、現在の呼称で言うと「会計年度任用職員」です。春〜秋の間、農業や建設業に従事している人が務めてくれます。お世話になる高齢者などに負担金は発生しません(年収の多いかたは若干の負担金が発生します)。各地域民生委員と役場民生課が連携して、対象世帯を決めます。
1988年〜2008年の間、村長を務められた高橋彦芳さんが考案・実現された制度です。
他の自治体では、高齢者世帯などに補助金を出すなどしていますが、大雪の時は除雪作業員が奪い合いになり、日当が高騰します。通常の日当であれば補助金である程度賄うことができても、高騰すると補助金は「焼け石に水」程度のものになってしまいます。栄村の雪害救助員制度は「現物サービス支給」で、そういう問題点を解決する優れものなのです。
国には議員立法で「豪雪地帯対策特別措置法」という法律があります。10年間の時限立法で、現法は本年3月31日で期限切れとなります。立憲民主党がいち早く2月7日、衆議院に「豪雪地帯対策特別措置法改正案」を提出されました。「豪雪地帯対策の実施に必要な財政上の措置」を義務化(第11条)、「除排雪に係る人材の確保、育成及び資質の向上」や「高齢者、障害者等の住宅の除排雪に必要な支援」(第13条)などが盛り込まれています。まさに豪雪地帯で求められていることです。「財政上の措置の義務化」を是非とも与野党一致で実現していただきたい。
栄村の雪害救助員制度は、現在、その経費を過疎債のソフト運用で賄っています。過疎債ですと、元利返済金の7割を国が交付税で措置してくれることになっているからです。しかし、そういう迂回的な方法ではなく、豪特法によって豪雪地の雪対策に対する交付金が実現されれば、豪雪地で「人らしい暮らし」を実現することができます。ここまで紹介してきた大雪の後の徐排雪の営みを知っていただき、全国会議員の力で豪特法の画期的な改正を実現していただきたいと思います。
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