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栄村復興への歩み
2011年3月に震度6強の地震で被災した長野県栄村で暮らす松尾真のレポートを更新しています。

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栄村出身作家の本のご紹介

 4月27日(日曜)のことだったと思いますが、昼休みに家に戻るとポストに大きな茶封筒が…。開けてみると、青倉出身の作家・島田武さんの『吾妻はや』という本が入っていました。島田さんが村の図書室と私に1冊ずつご贈呈下さったもので、役場の人がお届け下さったのです。島田武さんというお名前は3月にいただいた『東京栄村会創立30周年記念誌』で拝見したことがありました。
 お手紙によると、この作品は「3部作の第三部」にあたるもので、第二部収録の「雪の村」という作品はある文学賞を受賞されたそうです。
 私は4月29日の一日でいっきに読み通しましたが、たいへんな衝撃と深い感銘を覚えました。

『吾妻はや』

 「墓標」と「吾妻はや」の2作品が収録されていますが、前者は著者の自伝的小説です。日本の敗戦2ヶ月前に旧満州国陸軍幼年学校を志望して渡満しますが、日本の敗色濃厚な中、満州に到着してみるとすでにその学校は閉鎖されており、間もなく敗戦。そこから筆舌に尽くしがたい辛苦の日々が続きます。主人公がようやく故郷に戻ることができたのは昭和22年1月のことでした。
 昨今、「日本を戦争ができる国に変える」動きがさかんに見えますが、戦争がどれほど悲惨で酷(むご)いものなのか、この作品から改めて学ぶことが必要だと思います。

 他方、「吾妻(あづま)はや」は究極の夫婦愛を描く作品です。タイトルは「古事記」にちなんだもので、「ああ吾(わ)が妻よ」という意味です。
 この作品の後半では、認知症の初期状態の中で転倒事故から自分の居る場所さえ認識できなくなった妻と生死を共にしようとする主人公が妻とともに北信州の故郷をひそかに訪れるシーンが描写されます。読みながら、その場所と景色を想起することができます。私は作品のテーマである夫婦愛ということと同時に、故郷愛を強く感じとりました。
 
 是非、みなさんにお薦めしたい作品です。文芸社発行で定価1200円(税別)。村の図書室にあるはずです。また私がいただいたものをお貸しすることもできます。
 

お薦めの1冊『ローマ法王に米を食べさせた男』(昨年4月刊、講談社)


『ローマ法王に米を食べさせた男』(昨年4月刊、講談社)


 ある地域の、ある人がローマ法王に棚田米を送り届けて大成功したという話は、TVでもかなり紹介されているので、ご存知の人も多いと思います。先月10日、NHKの「鶴瓶の家族に乾杯!」でも紹介されました。
 「ある地域」というのは石川県羽咋市の神子原(みこはら)地区、「ある人」というのは羽咋市役所職員の高野誠鮮(じょうせん)さん【日蓮宗のお坊さんでもあります】。
 その高野さんの著書『ローマ法王に米を食べさせた男』がおススメの本です。

* 復興=地域再生へのヒントがいっぱい

 「震災復興=地域再生」ですが、高野さんは平成14年(2002年)から羽咋市役所農林水産課で「限界集落」の神子原の再生・活性化に取り組み、さまざまな成果をあげられています。彼のモットーは「可能性の無視は最大の悪策だ!」。ほとんどの人が、「そんなこと出来っこない」と言うことに対して、自ら果敢にチャレンジし、成功させているのです。その象徴が、ローマ法王に神子原のお米を食べさせたことです。なにせ、自分でローマ法王に手紙を書いたというのですから、その行動力には脱帽します。しかも、ローマ法王側から返答が来るまで2〜3ヶ月の期間があったのですが、「ローマ法王がダメならアメリカの大統領に働きかけよう」と準備していたというのですから、大変なものです。
 高野さんがやったことをそのまま真似をしてもダメですが、彼の想像力の豊かさ、それを行動に移す突撃力(行動力)に学べば、私たちも大いなる想像力と行動力を獲得できると思います。想像力と行動力こそ、震災復興=地域再生への最大の原動力です。

* 型破りの役人
 神子原という地区は昭和59年から平成16年末までの20年間で人口が37%も減り、耕作放棄地が平成12年度末の31haから平成17年に46haに増えたという典型的な「衰退する中山間地」でした。3つの集落から成りますが、その1つ、菅池集落の高齢化率は57%だったそうです。
 高野さんは、平成16年10月に初当選した橋中市長から、「㈰過疎高齢化集落の活性化、㈪農作物を1年以内にブランド化する」というミッションを与えられました。ローマ法王に米を送るというのは、この㈪のミッションを達成するために考えついたアイディアなのですね。
 ところで、本書の目次を見ると、「物騒な」小見出しが並んでいます。
「会議はやらない。企画書も作らない」
「上司には、すべて事後報告でスピード化」
 役所の「ルール」、常識を破る、型破りの人です。
 稟議書をまわしていると、上司から「なんで、そんなことをやるの?」などと言われて、時間ばかり食い、事がスムーズに運ばないというのです。
 そして、このことは彼のモットー=「可能性の無視は最大の悪策だ!」と深く結びついているんですね。これまでの役人の常識では「やってもダメさ」ということでも、少しでも可能性があって、「やらなきゃ!」と思えば、どんどん実行していく。そういう姿勢なんですね。
 栄村の震災復興でも求められているのはこういう意識(改革)だと思います。

* しっかりした調査と理論に裏打ちされている
 高野さんの行動はしかし単なる無鉄砲というものではありません。
 神子原米のブランド化のためには、その旨さをきっちりと調べ上げています。そのために人工衛星のデータまで使うというのだから驚きです。
 そして、「1.5次産業で農業革命」という考え方をしっかりとうちたてています。
「農林漁業の一次産業の最大の弱点は何かというと、自分で作ったものに自分で値段をつけられないこと。」「ならばどうするか。一次産業者である農家が希望小売価格を最初からつけて売ればいい。自分たちで作った商品を加工して付加価値を高めて売るという1.5次産業化を進めればいい。従来の流通を変えていく戦略で、これこそが村を救う根本治療だと思ったのです。」
 昨今では「農業の6次産業化」が流行りですが、それよりも以前に高野氏はこういう考えを自ら編み出し、農民たちと何度も何度も議論して、神子原米のブランド化、そして地区内での直売所設置を成功させていったのです。

* 他地域に学ぶことが大切
 いま、栄村の震災復興=再生を進めていくには、こうした他地域での先進的な取り組みの事例からどんどん学んでいくことが決定的に大事になっていると思います。


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