9日の「信毎」(信濃毎日新聞)4面に「
復興交付金運用 15年度まで運用可能 栄村など対象 制度要綱」という見出しの記事が出ました。重要な記事なので全文を以下に紹介します。
* 信毎の記事東日本大震災の被災自治体向けに政府が新設する復興交付金の制度要綱が8日、判明した。2011年度第3次補正予算に計上された総額約1兆9千億円を年度内にすべて消化するのは難しいため、市町村が交付金を原資に基金をつくり15年度までに順次、取り崩すなどの運用ができるようにする。
下水内郡栄村を含む11道県222市町村が対象。交付金を基にする事業計画について、政府は来年1月末にも第1次の提出を締め切る。自治体ごとの配分額の決定は3月前半までかかる見込みだが、配分額が決まる前でも事業の先行着手を認めて迅速な復興を支援する。
要綱では、計画期間は最長で15年度まで。集団移転や公営住宅建設など国の補助事業40種類に使え、地方負担は実質ゼロとなる。
一部は補助対象外の避難路整備、浸水予測図の作成など、復興の効果を高める事業にも使える。ただ㈰住宅購入の助成など個人資産の形成につながる㈪自治体職員らの人件費に充てる―などのケースは認めず、公益性や国の施策との整合性も確認する。
以上が「信毎」の記事全文です。
共同通信配信の記事のようで、政府の復興本部への取材によると思われる内容もあるようです。基本的に内容に間違いはないといえますが、「復興特区法」「復興交付金制度」について初めて知る人にとっては理解が難しい点もあるように思います。そこで、「復興特区法」の原文、国が発表した「復興特別区域基本方針(案)」(以下、「基本方針」と略)、「東日本大震災復興特別区域法資料」(以下、「資料」と略)を参考にして、少し解説を加えたいと思います。
* 「復興特区法」とは 新聞などを見ると「復興特区」あるいは「特区」という言葉が乱舞している観がありますが、その意味は必ずしも明確ではありません。
法律の正式名称は、「
東日本大震災特別区域法」です。この「特別区域」を略して「特区」と言っているわけです。
この法律は、㈰復興特別区域基本方針、㈪復興推進計画の認定及び特別の措置、㈫復興整備計画の実施に係る特別の措置、㈬復興交付金事業計画に係る
復興交付金の交付、について定めています。
* 栄村は「特別区域」対象の1つだが、自動的に「特区」になるわけではない 「特区」、すなわち「復興特別区域」は、今回の「震災により一定の被害を生じた区域である222市町村の区域(「特定被災区域」)が対象となります。栄村はこの「特定被災区域」に認定されています。
しかし、この「特定被災区域」であれば自動的に「復興特別区域」(特区)になるわけではありません。
「特区法」に定められた
「復興推進計画」、「復興整備計画」、「復興交付金事業計画」のすべて又はそのうちの1つでも作成して、国に申請し、国の認定を受けることが必要です。
* 「復興推進計画」、「復興整備計画」、「復興交付金事業計画」とは そこで、3つの「計画」とはどういうものか、簡潔に見ておきます。(以下の記述は国の「基本方針」から引用しています)
復興推進計画
規制・手続の特例や税制上の特例等(「規制の特例等」と呼ぶ)を受け
るために県、市町村が単独又は共同して作成する計画。
復興整備計画
土地利用の再編に係る特例許可・手続の特例等を受けるために、市町村
が単独又は県と共同して作成する計画。
復興交付金事業計画
相当数の住宅、公共施設その他の施設の減失又は損壊等の著しい
被害を受けた地域の地方公共団体が作成する計画であり、これを内閣総理大臣に提出することにより、予算の範囲内で、当該事業の実施に要する経費に充てるための復興交付金の交付を受けることができる。
行政文書の文言ですから、なかなか理解しにくいものがありますが、栄村にとって
いちばん重要なのは「復興交付金事業計画」です。
この
「復興交付金事業計画」を提出しなければ、せっかく国が用意した復興交付金が栄村には来ないことになってしまうからです。
もちろん、「復興推進計画」、「復興整備計画」が栄村とは関係ないというわけではありませんが、これについては栄村が「震災復興計画」をしっかりと持っていれば対応が可能だと思われます。
* 「復興交付金」とは さて、栄村にとって最も重要な「復興交付金」についてです。
これは、「復興特区法」と同じく9日に閉会した臨時国会で成立した平成23年度第3次補正予算に盛り込まれているものです。規模は1兆5,612億円です。
財務省の資料では、つぎのように記されています。
被災地方公共団体が自らの復興プランの下に進める地域づくりを支援し、復興を加速させるため、東日本大震災復興交付金を創設
土地区画整理事業・防災集団移転事業等の復興地域づくりに必要な各種補助メニューを一括化することに加え、復興地域づくりに必要となる各種ハード・ソフト事業を実施可能とする使途の自由度の高い資金を確保
<基幹事業と効果促進事業> 復興交付金の対象となる事業は「基幹事業」と「効果促進事業等」の2本立てになっています。
「基幹事業」
「被災自治体の復興地域づくりに必要なハード事業を幅広く一括化」して交付金の対象とするもので、5つの省の40事業が対象とされています。事例をあげますと、災害公営住宅整備事業、道路事業(市街地相互の接続道路、道路の防災・震災対策等)、農山漁村地域復興基盤整備事業(集落排水等の集落基盤、農地等の生産基盤整備等)、農山漁村活性化プロジェクト支援(復興支援)事業(被災した生産施設、生活環境施設、地域間交流拠点整備等)などがあります。
「効果促進事業等」
「基幹事業と関連し、復興のためのハード・ソフト事業を実施可能とする使途の緩やかな資金を確保」するもの。
<地方負担の軽減> こうした事業を実施するうえで
地方(市町村、県)の負担が実質ゼロになるように手当されます。
まず、「追加的な国庫補助」です。
たとえば、農業農村整備事業の場合、通常は国50%、地方50%ですが、その「地方負担50%」の50%が国庫補助の対象となります。
すると、地方は事業費の25%を負担しなければなりませんが、それについては「地方交付税の加算」によって手当されます(このための経費1兆6,635億円が第3次補正予算で確保されています)。
また、「効果促進事業等」については、80%が国庫補助の対象となり、残りの20%が「地方交付税の加算」で手当されます。
* 復興交付金は平成23年度中に交付 ところで、国の予算(財政)は単年度主義です。つまり、平成23年度予算のお金は平成23年度中に使いきることになっています。
ですから、上に説明した復興交付金1兆5,612億円及び地方交付税交付金1兆6,635億円は平成23年度中に該当自治体に交付しなければならないのです。
しかし、自治体の側では、交付される何百億円、何千億円のお金をこれから数ヶ月のうちに使いきることなど到底できません。
そこで、市町村は「基金」をつくり、交付される何百億、何千億のお金をそこに入れます。いわば貯蓄するわけです。そして、それを交付の前提として国に提出した「復興交付金事業計画」に基づいて数年間にわたって支出していくわけです。先の「信毎」の記事ではその「数年間」が2015年度(平成27年度)までだとされています。
以上が、「復興特区法」と「復興交付金」の内容です。