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栄村復興への歩み
2011年3月に震度6強の地震で被災した長野県栄村で暮らす松尾真のレポートを更新しています。

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栄村復興への歩みNo.352(1月15日付)

 

 村内で零下12℃を記録した超寒い朝がありましたね。1月10日です。その日の森・中条地区から捉えた朝陽です。厳しさの中から光が見えてくる。まさにいまの栄村にふさわしい光景だといえます。(下写真は同時刻のスキー場方向)


            今年は栄村の勝負の年

 

 村は新年早々、4つの温泉宿泊施設の指定管理者を公募することを発表しました。指定管理者制度そのものは国がその制度を創設して以来、栄村でも採用してきましたが、その公募は初めてのことです。
 何か、新しいことが起ころうとしているのです。
 この機会を生かすも殺すも、それは私たち村民次第だと思います。私は“地域プロデューサー”たることをめざす立場から積極的な問題提起をしたいと思います。


4施設の健全運営は村民すべての願い
 雄川閣、のよさの里、トマトの国、北野天満温泉の4つの施設は、第一には観光施設としてつくられたものです。と同時に、観光施設としてうまく運営されることによって村民が温泉等を利用でき、村民福利を向上させる施設となっています。
 この4つの施設が健全に運営されることは、日常的に共通入浴券での入浴をしているかどうかにかかわらず、すべての村民に共通の願いです。村の小学校や中学校の同級会をやるとなれば、会場候補に真っ先にあがるのは4つの施設のいずれかです。久しぶりに故郷に帰ってきた人たちに満足をいただくことができれば、村で暮らす者にとっても嬉しいことです。
 村民のみなさんが長年親しんだ振興公社が姿を消すことは寂しいことですが、いまは振興公社の解散の是非について議論する時ではないと思います。もちろん、総括(反省)を曖昧にしてよいという意味ではありません。それは時間をかけてやらなければならないことですが、とにかく4月1日以降、4つの施設がきちんと運営されるようにすることが現在の急務です。

 

1月10日夕のトマトの国

この日は建物周りの排雪作業が北信舗道さんの手で行われました。

翌11日には屋上の雪下ろしが。地元企業との提携です。

 

(以下、企業組合ぬくもりの事実関係の記述は同組合への取材に基づいています。)


企業組合ぬくもりの誕生は画期的
 新聞でも報道されているように、村民を中心とする有志25名によって企業組合ぬくもりが設立されました。企業組合ぬくもりは4つの施設の指定管理者公募に応募する意思を表明しています。
 上から指示されて何かするというのではなく、ごく普通の村民が立ち上がったことは画期的な出来事です。
 企業組合ぬくもりは11月24日に設立総会が開かれ、年末の12月25日に長野県知事からの認可を得て、年が明けた1月7日に登記されました。
 企業組合というのは中小企業等協同組合法に基づく法人で、「自らの職場を確保するために自ら会社を立ち上げる」というものです。ですから、企業組合ぬくもり設立の大きな推進力になったのは、昨秋10月5日に振興公社理事会から「公社は平成30年度いっぱいで指定管理から撤退する。みなさんは3月31日で職を失う」と通告された公社職員の多くが自らの職場を確保しようと立ち上がったことです。栄村では前例のない取り組みに立ち上がることはたいへん勇気がいることだったと思います。
 出資金を集めて会社をつくるという点では株式会社と似ていますが、企業組合と株式会社とでは決定的に異なる点があります。株式会社は「資金力のある少数の人が会社をつくり、労働者を雇う」のに対して、企業組合は「働く場を確保したいという人たちが少しずつお金を出し合って会社をつくり、自ら経営の主体となる」のです。
 企業組合ぬくもりの組合員には公社で働いてきた人たちだけでなく、幅広い方々もおられます。主婦の人もおられますし、「俺たちが世話になっている温泉をとにかく守りたい」という年金生活者もおられます。また、村の出身者で現在は都会に住んでおられますが、「故郷・栄村よ、元気であってくれ」と願い、頻繁に村に足を運んでおられる人も参加されています。
 みなさんのご了解をいただければ、今後、個々の方々の思いをインタビュー形式で紹介させていただきたいと思っています。
 運営は組合員総会が最高決定機関です。特定の人が勝手な運営をすることは許されません。事業に従事しようという人、従業はできないが協力はしたいという人、共に組合員になれます。さらに、「応援したい」という人たちが参加できる賛助会員制度もあります。
 私は公職に就いている関係上、組合員にはなりませんが、全力で応援していきたいと考えています。

 

小滝集落の道祖神祭り準備作業の様子

地元の子どもたちが元気に遊ぶ姿、そして交流にやって来た松本

大学の学生さんたちの姿が見られ、とっても賑やかでした(13日)

 

若者が暮らせる村を実現しなくては
 今回の4施設指定管理者公募には、栄村の観光産業の今後がかかっています。
 栄村にとって最大の課題は、《村には十分な職場がある。だから、若者が安心して村で暮らすことができる》ことを実現することです。
 「栄村の基幹産業は農業と観光」というのはほとんどの人たちの共通認識です。私もそうだと思います。
 しかし、「基幹産業」と言う以上、若者が充分な稼ぎを出来て、家族を養うことができるものでなければなりません。農業は専業農家が数えるほどしかないというのでは「基幹産業」とは言えないでしょう。農業についても産業政策を早急に検討しなければなりません。ただ、今回は4施設の運営との関係で、観光業について書きます。
 「振興公社の職員は役場に準じる給料をもらっているのだろう」と思っている人もおられるようですが、実際はそうではありません。とくに若い職員は薄給です。ひとまずこの現状を打開できるような観光産業にしていかなくてはなりません。
 「栄村は豊かな自然がいっぱい」とよく言われます。たしかにその通りです。しかし、「豊かな自然」だけでは観光は産業になりません。
 何が必要なのでしょうか。観光の旅で訪れる人たちに満足のいくサービスを提供することです。当たり前のことと言えば当たり前のことですが、しかし、栄村ではそれが実現できていないのが現状です。
 では、《満足のいくサービス》とは何でしょうか。
 サービスといえば、真っ先に接客サービスが頭に浮かんできます。多くの村民が「公社の施設はサービスが悪い」と言います。地元民に評判がよくなくて、観光客のみなさんの満足を得られるわけがありません。しかし、だからといって、職員を責めれば済むという問題でもありません。振興公社において、接客サービスの基本がきちんと教育されてこなかった、また、お客さまによいサービスを提供できるような職場環境が確保されてこなかったという問題があります。この状況を根本的に打開するのに、「自らの職場を確保するために自ら会社を立ち上げる」という企業組合のあり方が大いに有効だろうと、私は見ています。
 サービスは、宿泊施設での接客サービスだけではありません。お客さまに“物語(ものがた)り”を提供することが求められます。
 みなさんは自分が旅行に行った時、ただ景色を眺め、食事をしただけで満足しますか? そうではないですね。“物語り”があるからこそ、旅行が満足するものになるのです。

 

   「秋山郷のこの素敵な眺めはこの地の人びとが山仕事を

   中心に暮らしてきたからこそ守られてきました。長年、

   焼き畑もやってこられたのですよ。」
   「機械がなかった時代、この地の人たちは〈かんじき〉

   というものを履いて雪を踏み固め、道を確保しました。

   今日はその〈かんじき〉を履いて雪の上を歩く体験がで

   きます。」
   「さきほど食べていただいたトマト。美味しかったでし

   ょう。畑で真っ赤になるまで完熟させ、それからもいで

   くるのですよ。」
   「ご飯が美味しいですね。田んぼの水は冬に7m以上雪が

   積もる野々海というところの雪融け水です。田んぼまで水

   を運ぶ水路に人家はなく、ブナ林を通ってきます。栄養た

   っぷりのお水なんですよ。だから、ご飯が美味しいのです。」

 

 「“物語り”なんて言うから、どんな大そうな話かと思ったら、なーんだ、その程度の話か」と思われる方もおられるかもしれませんね。もちろん、上記の例だけでは、求められている“物語り”の1%も表せていません。しかし、現在の栄村観光ではこの程度の“物語り”も満足に提供されていません。企業組合ぬくもりは“物語り”ができる人材を集めるという意識性ももって事を運んでいると聞いています。

 「栄村復興への歩み」ではNo.349(11月6日付)で昨秋10月28日の秋山郷切明温泉・雄川閣の駐車場の様子を紹介しました。写真をご覧になった村民から、「えっ! こんなにたくさんの人が来ているの?」と驚かれました。
 ところが、雄川閣の人手が足らず、充分なおもてなし体制をつくれず、お客さまをみすみす逃しています。宿泊業経験者は「10月1か月で少なくとも800万円の売上は確保できる」と言います。しかし、昨秋は人手不足で450万円程度にとどまっています。山の幸を満喫できる食、秋山郷の人たちとのふれあいの機会、絶景ポイントへのご案内、…。こうしたサービスを十二分に提供できれ
ば、1カ月で1千万円の売上も夢ではないでしょう。
 そうしてこそ、観光を産業として確立し、若者が職を得て、安心して村で暮らすことができるようになるでしょう。

 

都会の子どもも一緒に餅つき

元旦のスキー場での餅つきです。都会の子どもたちにとっては滅多に

ないチャンス。楽しそうです。こういう企画を元旦だけでなく、子ど

もがたくさん訪れる他の連休にもやれるといいですね。

 

「ちょっとの時間、私も手伝い」――これが勝負を決める
 観光業は人が人にサービスを提供するものです。ですから、充分なサービスを提供しようとすれば、多くの人手を必要とします。
 ただ、丸一日、同じ人数の人手を必要とするわけではありません。宿泊を終えたお客さまがお帰りになった直後から数時間の部屋掃除・次のお客さまをお迎えする用意、昼食などを求めるお客さまが殺到するお昼前後の数時間、そして、宿泊のお客さまにお食事を出す夕食時間帯の1〜2時間。こうした特定の時間帯に人手が多く必要になります。これに対応するためにフルタイムの職員を何人も、何人も確保・配置するとすれば、人件費は膨大なものになります。
 私たちは、近場ですが、松之山温泉や当間高原リゾートのベルナティオを訪れた場合、丁寧なもてなしをしてくれる仲居さんやホールスタッフのサービスに感心し、満足します。そういうスタッフの中にはフルタイムで働く人もおられるでしょうが、多くはじつは地元のかあちゃんなのです。ベルナティオは地元の十日町市水沢地区とさまざまな協力・提携関係を築き、人材面でも多くの力を得ていると聞きます。
 じゃあ、栄村では、そういうことはできないのでしょうか。
 いえ、できます。できるはずです。
 昨秋の雄川閣は、チェックアウト直後の部屋掃除のスタッフを確保できず、困っていた時、「私たちはもう年金生活だから、そんなに稼がなくてもいい。一日数時間でよければ手伝うわ」という、かあちゃん二人が通ってくれることでピンチをしのぐことができました。
 「ちょっとの時間、私もお手伝い」だったら出来るという人はかなりおられると思います。先日、「〇〇さん、夕刻の温泉に入る人が多い時間帯だけ、フロントに立ってもらうことができないでしょうか」、「ああ、それくらいだったらいいですよ。勤めていた時は30年間、受付窓口に立っていましたから」というやりとりがあったそうです。                               
 こういう「ちょっとの時間、私もお手伝い」をかって出てくれる人がでてくれば、その存在がコア(核)で働く若いフルタイム職員を包み込み、お客さまに満足のいくサービスを提供し、若者雇用を生み出す観光産業を育てていくことができるのです。

 

さかえ倶楽部スキー場4年目という親子連れのお客さま

私がカメラを向けると、「写真を撮ってくれるって」と言って、ご家族

全員でカメラに顔を向けてくださいました。12月15日オープンの日。

 

今年一年、みんなで頑張りましょう!
 「ちょっとの時間、私もお手伝い」の話、ベルナティオをモデル(基準)とするようなサービスの提供、いずれも栄村にとっては初めてのチャレンジと言ってよいでしょう。
 「そんなこと、言うのは簡単だけど、実際にやれるのかなあ」という疑問、心配が出るのは当然です。
 でも、やらないと始まりません。まず一人、そして数人。そこからの出発です。しかし、まず動き出せば、活路は開かれます。
 今号の冒頭に、「今年は栄村の勝負の年」と書きました。
 そうです。“勝負の年”なのです。
 おそらく、実際は試行錯誤の繰り返しが避けられず、今年の干支から言われる「猪突猛進」の言葉で表されるような一直線での進撃とはいかないでしょう。でも、試行錯誤を繰り返す。そして、とくに大事なのが、成功例、失敗例をたくさん手に入れ、それを徹底的に分析し、教訓を引き出し、栄村なりの優れたやり方を編み出していくことでしょう。「もう歳が高くて、《ちょっとの時間のお手伝い》もできない」という高齢の方であっても、トマトや北野に家族などと共に足を運び、そこでのサービスについて、「あれはいい、これは感心しない」という意見を伝えることはできます。
 そういう村民総がかりの取り組みがいま、求められているのだと思います。
そして、観光を栄村産業として確立し、村民が一人でも多く、温泉に気軽に行けて、みんなでワイワイガヤガヤ、楽しめる村にしましょう。
 震災から間もなく満8年。あの大変な時にご支援くださった全国のみなさんに、「栄村はこんなに元気になりました」というご報告が届けられる村にしたいものです。
 みなさん、力を合わせて頑張りましょう。


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